哲誠文庫(関山文庫)公開にあたって

 東海学園大学の瑞々しい萌芽期、東海学園女子短期大学の第二代学長・林霊法先生の持論は「短大でも四大でも、大学を評価するバロメーターは図書館の蔵書内容である」であったと仄聞しております。だから、副学長時代の昭和42(1967)年、当時の国文学科教授、関山和夫(せきやまかずお)先生(現・名誉教授)からの「哲誠文庫(てつじょうぶんこ)」寄贈が実現した折の、ご満悦のほどは推して知るべし、でありましょう。

 果たして林先生の感激を裏付けるように、江戸時代の和綴じ古書を中心とする文献群は、仏教学者、文献学者の注目を浴び、最近(時間的にも空間的にも)の一例を挙げれば、一昨年、一宮市博物館の企画展『お釈迦さまのものがたり』出品の『釈迦八相物語』(1666)は木版印刷の絵図、変体仮名の「ことば書き」頁の一々が、真価の片鱗を誇示する感がありました。

 もし、この企画展に感銘を受け、全八冊のうち当日未公開の部分に特別な関心を抱く高校生がいたと仮定して、彼が本学を訪れて司書の職員に閲覧を申し出るには、相当なシンゾウを必要とするのではないでしょうか。現に「学者」いや「学長」という肩書きに援護され、業務用手袋の防御があっても、触れただけで何らかの損傷が危惧されるような資料の閲覧申請には、ためらいを禁じえません。

 思えば浄土宗の教学局長を務めていた前世紀末、ちょうど八百年まえに撰述された『選択本願念仏集(せんちゃくほんがんねんぶつしゅう)』(廬山寺本[ろざんじぼん])のCD-ROM化が記念事業として実現され、科学技術の進歩に目を瞠ったものでしたが、二十一世紀に入って電子化・デジタル化の急速な普及と共に、前記のような「ためらい」に妨げられずに、「限りなくホンモノに近い資料」に接する機会が、広く解放されつつあることは、同慶の至りです。

 ここで「哲誠文庫」について寸言を述べるならば、寄贈者に因んで「関山文庫」とも別称される書籍群は、関山先生の父上、浄土宗西山派の学僧・関山涼山(せきやまりょうぜん)師のお師匠さま、名古屋市熱田区伝馬町正覚寺第四十六世諦全上人(たいぜんしょうにん)(1866~1925)の膨大な蔵書から選り抜かれた3,191冊で、大部分が江戸期の出版にかかる、浄土宗はじめ日本仏教各宗の教義、威儀、さらには梵字、語学、辞書類から、音韻論、医学、数学にも及ぶ広範なテキスト類の宝庫であり、「不許他見」と朱書された写本類も、各宗「秘伝」の貴重な史料と評価されています。

2011年4月吉日
東海学園大学学長 袖山榮眞

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